子育て指標の読み方。保育・教育・医療・安全を数字で選ぶ前に。
— 街の通信簿が使う 4 軸の意味と限界
街の通信簿の子育てスコアは、4 つの指標軸から算出されている。保育所の数、教育施設の密度、医療へのアクセス、そして安全に関わる複数の要素。しかし数字には、数字にしかできないことと、数字には絶対にできないことがある。移住を検討するすべての人へ、この数字の作り方と読み方を説明する。
この記事で分かること
- 子育てスコアの主軸は出生率(人口動態の結果値)で、保育所密度(nurseryPerPop)・教育施設密度(educationPerPop)・医療施設密度(medicalPerPop/medicalWorkersPerPop)・待機児童数(waitlistChildren)がそれぞれボーナス・補正として加わる。数字の構成を知ることで、「なぜこのスコアか」が説明できるようになる。
- 各指標はすべて相対値だ。比較は同規模の都市・同都道府県内で行うのが基本。政令市と村を同じ軸で比較することは、構造的に意味をなさない場合がある。スコアを読む時、この前提を持つかどうかで、数字の役割が大きく変わる。
- 数字が測れないものも多い。保育士の質・園の雰囲気・学校の文化・地域住民のつながり——これらは統計に現れない。スコアは「候補を絞る地図」であり、最後の選択には現地訪問と地域住民の声が不可欠だ。
この記事が説明すること
街の通信簿には、各都市の子育て環境を数字で示す「child スコア」がある。Family TOP の移住フローや各都市の子育てページに表示されるこの数値は、複数の公的統計から計算されたものだ。しかし多くの人にとって、「なぜこのスコアなのか」はブラックボックスに近い。
この記事では、スコアを構成する 4 つの指標軸——保育・教育・医療・安全——がそれぞれ何のデータを使い、どう計算されているかを説明する。そして同時に、数字では測れないものについても、正直に書く。移住を具体的に考えている人が、この数字を地図として使えるようになることが目的だ。
保育軸:nurseryPerPop と waitlistChildren の 2 指標
保育環境を表す指標として、街の通信簿は 2 つの数値を使っている。
ひとつは nurseryPerPop(人口 1 万人あたりの認可保育所等の施設数)だ。出典は e-Stat 経済センサス活動調査(2021 年)で、保育所・認定こども園・地域型保育施設などが対象となる。この値が高いほど、人口比で見た保育の受け皿が多いことを意味する。
もうひとつは waitlistChildren(待機児童数)だ。厚生労働省が毎年 4 月 1 日時点で集計している公式数値を使っている。スコア計算では、待機児童ゼロの場合はボーナス、人口比で一定水準を超えた場合はマイナス補正として加わる。
注意点が 2 つある。第一に、waitlistChildren がゼロだからといって「保育が充実している」とは限らない。前節で述べたように、子育て世代の人口が少なくて需要自体が低い場合にもゼロになる。nurseryPerPop の絶対値と合わせて読む必要がある。第二に、厚生労働省の公式集計には「隠れ待機児童」が含まれない。育児休業を延長している保護者や、希望する施設に入れず申請を取り下げた家庭はカウントされない。実態と統計の間には、常に一定の乖離がある。
教育軸:educationPerPop が指しているもの
教育施設密度は educationPerPop(人口 1 万人あたりの教育施設数)で表される。出典は同じく e-Stat 経済センサス活動調査(2021 年)だ。
ここで重要な前提を共有しておきたい。この指標が測っているのは、学習塾・予備校・語学教室・音楽教室などの民間教育施設の密度だ。小学校・中学校・高校などの公立学校の設置数ではない。公立学校の数は人口規模に応じて自治体が設置義務を負うため、密度の地域差が小さく比較指標として機能しにくい。一方、民間教育施設は地域の教育需要を反映する代理指標として機能しやすい。
この特性から、educationPerPop は首都圏・大都市圏のベッドタウン型市区町村で高く出やすく、地方の農山漁村では低くなりやすい。「教育環境が劣る」という読み方は正確ではない。民間教育市場の成熟度を示す指標として、「学習塾や習い事の選択肢の多さ」という文脈で読むのが適切だ。
子どもの学習環境を重視して移住先を選ぶ場合、この指標は「選択肢の広さ」の代理値として使えるが、「公教育の質」の代理値としては使えない点に注意が必要だ。公教育の質は、残念ながら現時点では市区町村レベルで公的統計から比較できる指標が限られている。
医療軸:2 指標を重ねて読む意味
医療アクセスは 2 つの指標を組み合わせて使っている。medicalPerPop(人口 1 万人あたりの医療施設数)と、medicalWorkersPerPop(人口 10 万人あたりの医療従事者数)だ。両者の出典は e-Stat 経済センサス活動調査(2021 年)と厚生労働省 医療施設調査・病院報告だ。
なぜ 2 指標必要なのか。施設数と従事者数は必ずしも同じ方向を向かないからだ。クリニックが多くても小児科の常勤医が少ない街がある一方、施設数は少なくても大規模病院が集積して従事者密度が高い街がある。千葉県鴨川市は後者の典型で、人口規模に比して医療従事者密度が突出している(亀田総合病院等の集積による)。この実態は medicalPerPop だけを見ていると見えない。
子育て世帯にとって医療アクセスは、移住後に最も「気づきにくい」リスクのひとつだ。「近くに病院がある」は確認できても、「小児科の夜間対応があるか」「専門医にかかりやすいか」は住んでみるまでわからないことが多い。2 つの数値が同じ方向を向いているかどうかを確認することが、医療アクセスを読む第一歩になる。
安全軸:スコアが測れるものと測れないもの
「安全」は子育て環境の中でも最もデータ化が難しい軸だ。街の通信簿では現時点、地震リスク(seismicProb30y_6w:J-SHIS の 30 年以内に震度 6 弱以上となる超過確率)と洪水リスク(floodHazardRate:0.5m 以上浸水が見込まれる人口比率)を防災の代理指標として収録している。これらは自然災害リスクとしての客観的数値だ。
一方、子育て世帯が直感的に「安全」と聞いて思い浮かべる——夜道の明るさ、地域住民の目、子どもが通学路で見守られているかどうか——といった社会的安全性は、現時点では公的統計から市区町村レベルで精度良く測ることができない。犯罪統計(警察庁の認知件数)は存在するが、暗数(被害届が出ない犯罪)が大きく、観光・繁華街機能の有無で大きく変動するため、「子育て環境の安全性」の代理値としては適切でないとわたしたちは判断している。
この判断は正直であるための判断だ。精度が確保できないまま「治安スコア」を提示することは、「数字を誠実に示す」という街の通信簿の原則に反する。防災リスクについては実数で表示し、社会的安全性については現地確認に委ねる——この割り切りの理由をここに記しておく。
スコアは地図であり、目的地ではない
子育てスコアは 5 つの主軸のうちの 1 軸「child」として表示される。その計算では出生率が主指標となり、保育・教育・医療・安全の各要素がボーナス・補正として加わる構造だ。出生率を主指標にしているのは、「実際に子どもが生まれ育つ街かどうか」という帰結指標が、個別の施設数よりも地域の子育て環境の実態を総合的に反映すると判断したからだ。
ただし、スコアには構造的な限界がある。同規模の都市との比較(階級内比較)と都道府県内比較を組み合わせることで、政令市が構造的に低く出る問題は緩和されているが、それでも数字は「条件の代理値」にすぎない。最終的に移住を決める人が確認しなければならないのは、「この街の保育士は子どもと向き合っているか」「学校の先生と話が通じるか」「地域の人たちが子どもに声をかけてくれる文化があるか」といったことだ。これらは足を運んで、目で見て、地域の人の声を聞いて初めて分かる。
数字は出会いを作る。どの街を訪ねるかを絞り込む地図として使う。そのうえで、数字が測れないものを確認しに行く——それが、街の通信簿の子育てスコアの正しい使い方だと、わたしは考えている。あわせて人口が減っても、子育てしやすい街がある。も読んでほしい。