ゆるキャン△の聖地は、県境を越えて根を張っている。
— 山梨・身延町から静岡・浜松市まで、88選認定と公式協力、その線引きを歩く
『ゆるキャン△』の聖地は、山梨県の身延町・山梨市・南部町と、静岡県の富士宮市・浜松市・磐田市、2県6市町にまたがる。アニメツーリズム協会が公式に認定しているのは身延町・山梨市・浜松市の3つだけで、残る3市町は認定なしで公式観光施策に組み込まれている。静岡県は2025年、自ら「経済波及効果4億9,810万円」と数字を発表した。1つのキャンプ漫画が、なぜここまで広く、正直に、根を張れたのか。
この記事の結論(3行)
- ゆるキャン△の聖地は山梨県3市町・静岡県3市にまたがるが、アニメツーリズム協会「日本のアニメ聖地88」が公式認定しているのは身延町・山梨市・浜松市の3つだけである。
- 静岡県は2024年10月〜2025年2月のスタンプラリー企画で8,330人を動かし、経済波及効果4億9,810万円と自ら発表した。山梨県側では2019年時点で山梨大学と地銀系コンサルが消費総額8,000万円超と算出している。
- 南部町・富士宮市・磐田市は88選の個別認定を受けていないが、公式観光サイトや県のコラボ企画に明記されており、「認定なし=非公式」ではないという事実を、この作品の広がり方が教えてくれる。
一つの物語が、二つの県にまたがっている
『ゆるキャン△』の聖地は、山梨県の身延町・山梨市・南部町と、静岡県の富士宮市・浜松市・磐田市、2県6市町にわたっている。これは単一作品の聖地としてはかなり珍しい広がり方だ。多くのアニメ聖地は「1つの街」に収束する(大洗町のガールズ&パンツァー、久喜市のらき☆すたのように)。ゆるキャン△が違うのは、物語そのものが最初から2県をまたぐ設計になっていることだ。主人公の一人、各務原なでしこは静岡県浜松市西部から山梨県へ引っ越してきた設定で、彼女の「山梨に来たばかりで戸惑う視点」がそのまま作品の地図の広さになっている。だから聖地も、山梨県だけで完結しない。この記事では、その6市町を「公式にどこまで認められているか」で分けて歩いてみる。
88選認定の3市町——身延町・山梨市・浜松市
アニメツーリズム協会が「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」で公式に認定しているのは、身延町・山梨市・浜松市の3市町だけである。物語の起点は身延町の本栖湖畔、浩庵キャンプ場だ。なでしこと志摩リンが出会う第1話の舞台で、ここに行ったことがある人なら分かると思うけれど、湖越しの富士山の見え方が本当にアニメの構図そのままで、この一致度の高さが「聖地巡礼」という言葉に説得力を持たせている。山梨市は笛吹川フルーツ公園やほったらかし温泉があるエリアで、なでしこの通学路として描かれた場所が実在する。浜松市はなでしこの出身地そのものだ。この3市町は、アニメツーリズム協会の公式サイトに個別の聖地ページが用意されており、初選出は2023年版まで遡る。「認定作品」と胸を張って言えるのはこの3つ、というのが今の私の理解だ。
認定されていないが、公式に手を取り合う3市町——南部町・富士宮市・磐田市
南部町・富士宮市・磐田市は、88選の個別認定こそ受けていないが、公式観光施策の中に明記されている。南部町は身延町の隣で、内船駅周辺が山梨県公式サイトの「ゆるキャン△モデル地マップ」に掲載されている。富士宮市は「ふもとっぱら」というキャンプ場で知られ、静岡県が実施した経済効果算定企画のエリアに含まれている。磐田市は少し変わった立場で、福田海岸というアニメSEASON2の舞台が、なでしこ役の声優・花守ゆみりさん本人によって静岡県提供のインタビュー記事内で「まだ行けていない聖地」として名前が挙がっている。この3市町を「認定外だから非公式」と切り捨てるのは違うと思う。88選というのは年間88作品という枠のある選抜制度で、そこに入らなかったからといって自治体の取り組みが薄いわけではない。街の通信簿としては、この「認定/協力」の線を混同せず、正直に分けて書くことが誠実さだと思っている。
静岡県が自ら発表した数字——8,330人、4億9,810万円
静岡県は2025年、2024年10月から2025年2月にかけて実施したゆるキャン△スタンプラリー企画の経済波及効果を、自ら4億9,810万円と発表した。参加者は8,330人(県内客3,891人・県外客4,439人)で、県外客の消費単価は平均6万1,765円、県内客は3万5,405円。宿泊業を中心とした対個人サービスへの波及が最も大きかったという。この数字が面白いのは、静岡県庁という発表主体が明確なことだ。ファンブログの体感ではなく、行政自身が「これだけ動いた」と数字で示している。聖地巡礼の経済効果は誇張されがちなジャンルだからこそ、発表元がはっきりしている数字を優先して扱いたい。
山梨県側で、それより先に起きていたこと
静岡県より6年早く、山梨県では2019年に山梨大学と山梨中銀経営コンサルティングが共同で、県内消費総額8,000万円超と算出していた。これは2018年、アニメ放送直後の実績値だ。まだ「ゆるキャン△」という単語が広く知られる前の段階で、地元の大学と地銀系コンサルが動いて数字を出していたということ自体、山梨県側の反応の速さを物語っている。ちなみに世の中には、産業連関表を使った別の試算で「波及効果計60.5億円」というもっと大きな数字も出回っているが、これは算出手法も対象年度も一次発表元も異なる民間の試算で、山梨大学調査とは別物として扱うべきだと考えている。数字は都合よく大きい方を選ばず、発表元がはっきりしている方を軸に置く——これは私が今回、一番気をつけた点だ。
声優本人がまだ行けていない場所がある、ということ
磐田市の福田海岸は、なでしこ役の花守ゆみりさん本人が「まだ訪れられていない」と語った場所で、聖地巡礼が今も途中であることを教えてくれる。アニメSEASON2の第1〜2話、リンが日の出を見る海岸として描かれた実在の公共海岸だ。声優インタビューでこの発言を読んだ時、正直グッときてしまった。作品を演じている本人ですら「行けていない」と言うくらい、この作品の聖地は広い。逆に言えば、まだ観光資源として伸びしろがある場所だということでもある。年末年始に鳥居が建つという地元の風習も紹介されていて、これは私有地ではなく地域の慣習が根付いた公共の場所だからこそ書ける話だと思う。
一つの町の専売特許でなくていい
ゆるキャン△の聖地が示しているのは、聖地は「一つの町だけのもの」でなくてもいい、という実例そのものだ。大洗町とガールズ&パンツァーのように、1つの街と1つの作品が深く結びつく形は美しい。でもゆるキャン△は違う形の美しさを見せてくれる。88選に認定された3市町、認定はないが公式に手を取り合う3市町、それぞれが「うちの町だけが聖地だ」と競わずに、静岡県も山梨県も自分の側の数字を自分で発表し、自分のペースで観光施策を進めている。この記事を書きながら、私はまだ本栖湖に行けていない自分に気づいた。バイクも車もなくて、鉄道とバスのルートを何度も調べては閉じている。でも、行けていないからこそ書ける記事もあるはずだと思って、今日この原稿を書いた。