「離島の自治体は百十ある」。島だけでできた自治体は、二十二しかない。
— 福岡市も広島市も、この一覧では「離島の自治体」である
国土交通省の「離島振興対策実施地域」には110の市町村が指定されている。ところが一つずつ確かめると、島だけで完結している自治体は22にとどまり、残る88は本土に広い市域を持つ市だった。福岡市、広島市、北九州市——いずれも指定された島の人口は市全体の0.1%未満である。「離島は110ある」は事実として間違っていない。だがそこから平均や傾向を語り始めた瞬間、見ているのは島ではなく本土の大都市の数字になる。社浦詠子が、一覧の中身を数え直した記録。
この記事の結論(3行)
- 離島振興法に基づく「離島振興対策実施地域」の指定は市町村単位ではなく島単位で行われる。行政区域内に対象の島が一つでもあれば市町村全体が一覧に載るため、110市町村のうち島だけで完結している自治体は22にとどまる。
- 残る88は本土に市域を持つ市で、指定された島の人口は福岡市353人(市全体の0.02%)、鹿児島市に至っては2人。規模の大きい上位10市の人口合計746万人に対し、島だけの22自治体は合計18万5千人で、およそ40倍の差がある。
- 22自治体の内部も一様ではない。高齢化率は御蔵島村18.0%から姫島村54.6%まで開き、5年間の人口変化も御蔵島村+43.6%から礼文町-58.1%まで幅がある。「離島」という一語で括れる実態は存在しない。
島の一覧に、福岡市が並んでいる
離島振興対策実施地域には110の市町村が指定されているが、指定された島が自治体の人口のほぼすべてを占めるのは22にとどまり、残る88は市域の一部にだけ島を含む本土の市町村である。離島振興法の指定は市町村単位ではなく「島」単位で行われる。行政区域内に対象の島が一つでも含まれていれば、その市町村全体が一覧に載る。だから佐渡市や対馬市のように行政区域そのものが島でできている自治体と、市域の大半が本土にある市が、同じ棚に並ぶことになる。
制度の運用としては、これで正しい。島に暮らす人が数十人であっても、その島には航路が要り、診療所が要り、学校が要る。指定はその支援のために行われる。問題は制度ではなく、この一覧を「離島の自治体110」という一語で受け取ったあとに何が起きるか、である。
指定された島の人口は、市全体の0.1%に満たない
規模の大きい市で見ると、指定された島の人口は市の総人口のごく一部でしかない。福岡市353人、広島市694人、北九州市28人、鹿児島市2人——これらの市を「離島の自治体」として数えることは、事実上、本土の大都市を数えることと同じになる。
指定された島の人口と、自治体全体の人口を並べるとこうなる。福岡市は島353人に対し市全体161万2,392人で0.02%。広島市は694人に対し120万754人で0.1%未満。北九州市は28人に対し93万9,029人、鹿児島市にいたっては2人に対し59万3,128人である。福山市343人/46万930人、高松市185人/41万7,496人も同様の構図で、同じ一覧には岡山市・姫路市・松山市・倉敷市も並んでいる。
合計すれば、島の数字は本土に飲み込まれる
規模の大きい上位10市の人口合計は746万4,699人。島だけでできた22自治体の人口合計18万5,057人の、およそ40倍にあたる。この非対称がある以上、110市町村を母集団にして平均を出せば、答えはほぼ本土の大都市の数字になる。
しかもその10市に実際に指定された島に住んでいる人は、合計しても1,687人にすぎない。746万人の中の1,687人である。「離島振興対策実施地域は110市町村」という一文からは、この規模差はまったく見えてこない。数字を扱うとき、母集団の中身を数え直す作業を省くと、正しい統計から間違った像が生まれる。
島だけの22自治体も、一様ではない
島だけで完結する22自治体は、5年間の人口変化が単純平均でおよそ32%の減少、高齢化率は単純平均37.6%。ただし内訳の幅は大きく、御蔵島村は+43.6%、利島村は+17.6%と人口が増えている。「離島は縮小している」と一括りにはできない。
22自治体のうち20は人口が減っており、礼文町-58.1%、奥尻町-56.1%、新上五島町-54.1%のように半減に近い自治体もある。一方で高齢化率は姫島村の54.6%から御蔵島村の18.0%まで開く。人口が少なく若い世代の比率が高い島(利島村24.5%、御蔵島村18.0%、青ヶ島村18.3%)と、規模がやや大きく高齢化が進んだ島(佐渡市42.6%、新上五島町42.7%)は、同じ「離島」という言葉の中でまったく違う顔をしている。
島根県海士町は、社会増減率+2.99%と22自治体で唯一の転入超過を記録している。ただし同じ期間に自治体全体の人口は35.9%減っている。転入が増えても、高齢化と出生数の少なさがそれを上回れば総人口の縮小は止まらない。「島に人が来ている」ことと「島の人口が増えている」ことは、別々の事実として扱う必要がある。
「医療施設密度が高い」は、人口の少なさが生む見かけであることがある
西ノ島町の医療施設密度68.1は22自治体で最も高い。しかし人口がほぼ同規模の奥尻町は33.2にとどまる。人口が数千人まで小さくなると、施設一つの増減で指標が大きく振れる。「医療が特に充実している」と読むのは早い。
西ノ島町の人口は2,788人、奥尻町は2,410人。規模はほとんど変わらないのに、密度は倍以上違う。これは西ノ島町の医療体制が二倍手厚いからというより、分母が小さいために施設数のわずかな差がそのまま指標を動かすためだ。当サイトは子育てカテゴリの記事で「教育・学習支援施設密度の高さは、教育熱心な街の証明にはならない」という同じ構造をすでに扱っている。島の医療や教育を語るなら、密度の高さより、何が何件あるかという実数を見るほうが正確に近づく。
結局のところ、この記事で確かめたことは一つだけだ。「離島」という言葉は、制度上の指定範囲としては明確に定義されている。しかしその一覧を数字の母集団として使った瞬間、言葉が指すものと数字が語るものは、静かにずれ始める。一覧表の行を一つずつ数え直す——旅の前にできることとして、私はこの作業が案外好きだ。