「教育・学習支援施設密度」の高さは、教育熱心な街の証明にはならない。
— 国立市(人口7.7万人)と十津川村(人口3,061人)は、ほぼ同じ数値になる
子育てで街を選ぶとき、「教育・学習支援施設密度」という数字を目にすることがある。しかしこれは学校の数ではなく、学習塾や予備校、カルチャースクールまで含んだ広い区分の密度だ。「文教都市」国立市(25.2)と人口3,061人の十津川村(26.1)がほぼ同じ数値になり、家族に人気で高所得の浦安市(13.0)は全国中央値19.1を下回る。5つの街の実データで、この数字の読み方を解説する。
この記事で分かること
- 「教育・学習支援施設密度」は経済センサスの産業分類「教育,学習支援業」に基づく数値で、学習塾・予備校・スポーツ教室なども含む広い区分であり、小学校・中学校の数そのものではない。
- 「文教都市」として知られる国立市(人口7.7万人、施設約194件、密度25.2)と、人口3,061人の十津川村(施設約8件、密度26.1)は、施設の規模がまったく違うのにこの数値がほぼ同じになる。人口の少ない街ほど、割り算の分母が小さく数値が上振れしやすい。
- 家族に人気で所得水準も高い浦安市は密度13.0と全国中央値19.1を下回り、千代田区の92.4は住民の13.55倍の昼間人口を抱える特殊な区の数字だ。密度は「街の規模」と「誰のための施設か」を確認してから読む必要がある。
「教育・学習支援施設密度」は、学校の数を測っていない
「教育・学習支援施設密度」という指標は、小学校や中学校の数を示すものではなく、経済センサスの産業分類「教育,学習支援業」に含まれる施設をすべて数えた、もっと広い区分の密度である。この区分には学習塾・予備校のほか、スポーツ教室、音楽・書道などの各種カルチャースクール、自動車教習所なども含まれる。全国の中央値は19.1(人口1万人あたりの施設数)で、街の通信簿の子育てカテゴリではこの数字を教育環境の一つの目安として扱っている。しかし「密度が高い=学校が充実している」と読むと、実際には見当違いになる場合がある。
東京都千代田区・文京区・国立市、千葉県浦安市、奈良県十津川村の5つの街の実データで、この数字の読み方を具体的に見ていく。
「文教都市」国立市と、人口3,061人の十津川村は、ほぼ同じ数値になる
一橋大学を擁し「文教都市」を掲げる国立市(人口7.7万人)と、日本最大の面積を持つ村として知られる十津川村(人口3,061人)は、教育・学習支援施設密度がほぼ同じ数値になる。国立市の密度は25.2で、施設数に換算すると約194件。一方、十津川村の密度は26.1とわずかに上回るが、施設数は約8件にすぎない。
人口が77,130人の街と3,061人の街で、割り算の結果がほとんど変わらないという事実は、この指標が「街全体の教育の充実度」を直接示すものではないことを物語っている。人口の少ない街では、施設がわずか数件しかなくても、分母が小さいために密度の数値は高く出やすい。十津川村には奈良県立十津川高等学校があり、村の人口規模に対して高校を持つこと自体は特徴的だが、それは施設「密度」の高さからは読み取れない情報だ。
千代田区の92.4は、住民13.55倍の昼間人口のための数字である可能性がある
千代田区の教育・学習支援施設密度92.4は、本稿で挙げた街の中で突出して高いが、その大半は区に住む子どもではなく、平日昼間に集まる働く人たちのための施設である可能性が高い。密度92.4を施設数に換算すると約616件。区の人口は66,680人だが、2020年の国勢調査によると千代田区の昼夜間人口比率は1355%、つまり住民の13.55倍の人が日中この区に集まる。
この極端な比率は、皇居周辺のオフィス街を抱える千代田区特有の事情で、教育・学習支援業に分類される施設の中にも、通勤者向けの資格予備校や語学スクールが相当数含まれていると考えるのが自然だ。実際、区に住む子どもが通う小学校の数を人口で割った値は1.65、中学校は2.1で、他の街と比べて極端に高いわけではない。密度92.4という数字だけを見て「千代田区は教育に手厚い区」と判断するのは早計だ。
家族に人気で高所得の浦安市は、全国中央値を下回る
東京ディズニーリゾートを擁し、子育て世代に人気の高い浦安市は、教育・学習支援施設密度が13.0と全国中央値19.1を下回る。浦安市の平均課税所得は776.4万円と、全国中央値318.1万円の倍以上にあたる高水準だ。所得水準が高く家族に選ばれる街だからといって、この指標が高くなるわけではない。
理由をこの数字だけから断定することはできない。学区の広さ、学習塾など民間教育産業の集積度、地価水準など複数の要因が影響しうるが、密度という一つの数字はそれらを判別する情報を持たない。ちなみに浦安市の小学校数を人口で割った値は0.99、中学校は0.58で、国立市(小学校1.43・中学校0.65)と比べるとやや低いが、これも「学校が足りない」ことを直接意味するものではなく、大規模な区画整理で1校あたりの学区人口が大きい街の特徴として読む必要がある。
文京区の22.6も、評判ほど突出した数字ではない
東京大学やお茶の水女子大学を擁し「教育の街」のイメージが強い文京区も、教育・学習支援施設密度は22.6で、全国中央値19.1をわずかに上回る程度にとどまる。文京区の平均課税所得は762.5万円で浦安市とほぼ同水準、施設数に換算すると約543件と本稿の中では絶対数が最も多い区だが、人口240,069人という規模の大きさを踏まえると、密度としての突出感はない。
むしろ人口3,061人の十津川村(26.1)や人口77,130人の国立市(25.2)のほうが数値の上では上回っている。「教育に強いというイメージのある街」と「この指標が高い街」は、必ずしも一致しない。イメージと数字の間にあるズレを認識した上で、両方を別々の情報として扱うことが必要だ。
街を選ぶときは、密度の数字より先に「誰が」「何を」を確認する
街を比較検討する段階では、教育・学習支援施設密度という一つの数字だけで判断せず、その街の人口規模、施設の実数、そして小学校・中学校といった学校種別ごとの数字を分けて確認する必要がある。本稿で見た5つの街は、施設数が約8件から約616件までばらつきがありながら、密度の数値だけを見ると13.0から92.4の範囲に収まり、必ずしも人口規模や所得水準と連動していなかった。
人口の少ない街では分母の小ささが数値を押し上げ、通勤者の多い街では住民以外の需要が数値に混ざり込む。子育てを理由に街を選ぶときは、密度という一つの割り算の結果を鵜呑みにせず、検討している自治体の教育委員会や学校のウェブサイトで、実際の学校数や通学区域、学習塾など民間教育の選択肢の広さを個別に確認することをすすめたい。数字は入口であって、答えそのものではない。