ひとつの島の記憶を、アニメとゲームが同時に選んだ
— 対馬市、元寇750年を歩く『アンゴルモア』と『Ghost of Tsushima』
長崎県対馬市には、1274年の元寇(文永の役)を描いた二つの作品が同時に息づいている。国産アニメ『アンゴルモア元寇合戦記』と、世界で500万本を売り上げた米国製ゲーム『Ghost of Tsushima』。国も媒体もまったく異なる作り手が、なぜ独立してこの島にたどり着いたのか。公式記録だけを辿って確かめた。
この記事の結論(3行)
- 対馬市の1274年(文永の役)という一つの史実を、日本の漫画・アニメチームと、アメリカのゲームスタジオが、互いに接点のないまま独立して作品の題材に選んだ。国も媒体も違う二つの物語が、同じ島の上に別々の物語を建てている。
- 対馬市は漫画には現地取材協力で、ゲームには公式コラボサイトと開発者2名の「永久アンバサダー」任命で応えた。窓口も温度感も違う二つの相手に、それぞれ合った公式の手を差し伸べている。
- 巡るべきは白嶽・浅茅湾・金田城(国の特別史跡・日本遺産構成文化財)という公共の名所と史跡で、私有地や個人の生活圏ではない。両作品はもともと山・海・国指定史跡だけで成立している。
同じ島に、二つの制作陣が別々にたどり着いた
対馬市の1274年(文永の役)という一つの史実を、日本の漫画・アニメチームと、アメリカのゲームスタジオが、互いに独立して作品の題材に選んだ。これは偶然にしては出来すぎている、と最初は思いました。だが調べるほど、両者の間に接点はありません。『アンゴルモア元寇合戦記』(原作・たかぎ七彦、KADOKAWA「コミックウォーカー」連載、2018年アニメ化)は、対馬観光物産協会の協力を得て2016年6月28日に原作者が、同年11月8日にはKADOKAWAアニメチームが現地取材を行っています。一方『Ghost of Tsushima』は米・Sucker Punch Productionsが開発し、2020年7月にPlayStation 4向けに発売、4か月で世界500万本を売り上げた大作ゲームです。どちらも「元寇の最前線に立たされた島」という同じ土台の上に、まったく別の物語を建てています。舞台となる対馬市は、人口約2.9万人、九州と朝鮮半島のあいだに横たわる日本の最西端の島です。
対馬市は、漫画には現地取材協力で、ゲームには「永久アンバサダー」で応えた
対馬市・観光物産協会は漫画の段階から現地取材に協力し、ゲームには自治体の公式称号で応えるという、二つの異なる関わり方をしています。『アンゴルモア』については、前述の通り作者・制作チームの取材を早い段階から支えました。『Ghost of Tsushima』についてはさらに踏み込んでいます。2021年2月26日、対馬市は公式コラボサイト「Ghost of "REAL" Tsushima」を全世界に向けて開設。ゲームのディレクターであるジェイソン・コーネル氏とネイト・フォックス氏(Sucker Punch Productions)を「対馬市永久アンバサダー」に任命し、公式に授与式の様子を公開しました。国内の漫画編集部と、海外のゲームスタジオ。窓口も温度感も違う二つの相手に、対馬市はそれぞれに合った公式の手を差し伸べてきたのです。
巡るべき場所は、私有地ではなく公共の史跡と自然
両作品が描く土地は、白嶽・浅茅湾・金田城という、対馬市が公式に案内する公共の名所と国指定史跡であり、個人の暮らしの場ではありません。白嶽は九州百名山に数えられる対馬のシンボル的な峰で、『アンゴルモア』では主人公・朽井迅三郎が重要な出会いを果たす場所として描かれます。浅茅湾は複雑な入江が連なるリアス式海岸で、同作では蒙古軍と防人の末裔が対峙する海です。決戦地として描かれる金田城は、白村江の戦いの後に築かれた朝鮮式山城の跡で、1982年に国の特別史跡に指定され、2015年には文化庁の日本遺産「国境の島 壱岐・対馬・五島」の構成文化財に認定された、1300年以上の歴史を持つ公共の史跡です。街の通信簿では私有地や個人の生活圏を聖地として案内しない方針を取っていますが、対馬のこの二作品はもともと山・海・国指定史跡という、誰もが訪れてよい場所だけで成立しています。
国も媒体も違う二つの物語が、同じ理由でこの島を選んだ
フィクションとしての設定は異なっても、両作品が対馬を選んだ理由は同じ——大陸に最も近い島として、実際に最前線で戦った史実の重みそのものです。対馬は元寇に限らず、白村江の戦い以降、幾度も国境防衛の最前線に置かれてきた島です。人口約2.9万人という小さな自治体でありながら、その地理的な宿命が、国内の歴史漫画にも、海外のAAAゲームにも、同じ強度で「本物らしさ」を与えています。ゲーム発の聖地巡礼はアニメに比べてまだ事例が少なく、海外プレイヤーが対馬を訪れる動機になっているという点でも、この島は珍しい位置にあります。アニメツーリズム協会の2024年版88選にも対馬市は選ばれており、公認の重みも両作品を支えています。
正直に言うと
わたし自身は『Ghost of Tsushima』をまだプレイできていません。それでも、白黒フィルターの中で刀を構える主人公のスクリーンショットを見るたび、「これを対馬で撮ったわけじゃないのに、対馬の光に見える」と毎回思います。逆に『アンゴルモア』は連載で少しずつ読んできた身として、防人たちが負け戦を承知で島を守ろうとする描写に、何度も手が止まりました。国も言語も違う二つの創作チームが、同じ島の同じ史実を通り抜けて、それぞれの読者・プレイヤーに同じ緊張感を届けている——そのことに、単純にファンとして興奮しています。いつか金田城の石塁の上に立って、二つの物語が見た景色を、自分の目で確かめてみたいです。