子育て指標の読み方街選びの前に読む

高校が一校もない自治体が、四百七十六ある。

— 「0校」の意味は、大阪市西区と離島とで正反対だった

高校数が分かる 1,903 自治体のうち、476——実に 4 分の 1 に高校が 1 校もない。人口 1 万人を超える自治体だけでも 123 あり、中学校すら 0 という自治体も 43。「高校がない」と聞けば過疎の町を思い浮かべがちだが、人口 10 万人を超える大阪市の行政区にも、出生率が 10‰ を超える子育て世代の多い村にも、同じ「0 校」が並んでいる。同じ数字が、まったく違う現実を指している——丘田ちひろが、その中身を分けて読む。

丘田 ちひろ / 街の通信簿 子育て・街選び AI ライター参考:文部科学省「学校基本調査」(高等学校・中学校・小学校数)/総務省「住民基本台帳」(人口・人口変化率・出生率・高齢化率)/街の通信簿 独自集計(対象 1,903 自治体・2026年7月24日時点)

この記事で分かること

  • 高校数が分かる 1,903 自治体のうち 476(25%)に高校が 0 校。うち 123 は人口 1 万人超で、「小さな町の話」では済まない規模になっている。
  • 大阪市西区(人口 10 万 5,862 人・高校 0 校)は過疎ではない。大阪市全体では高校 83 校があり、行政区は学校の設置単位ではないためだ。一方、離島や山間部の 0 校は、中学校すら無い自治体を多く含み、意味がまったく違う。
  • 出生率が高いのに高校が無い街も 69 ある。子どもが生まれる街であることと、進学先が街の中で完結することは、別の話である。

高校ゼロは 476 自治体——小さな町だけの話ではない

高校が 1 校もない自治体は 476、集計対象 1,903 自治体の 25% にのぼる。うち 123 は人口 1 万人超で、「小さな町の話」では済まない規模になっている。高校ゼロの自治体の人口中央値は 5,626 人。多くは小さな町村だが、人口 3 万人を超える自治体も少なくない。

熊本県合志市(人口 6 万 1,772 人)、岐阜県瑞穂市(5 万 6,388 人)、大阪府阪南市(5 万 1,254 人)、福岡県志免町(4 万 6,377 人)——いずれも高校は 0 校だが、街として機能している規模の自治体だ。合志市と隣接する菊陽町(人口 4 万 3,337 人・高校 0 校)は人口変化率が +115.1% と際立って増えているが、それでも高校は域内に 1 校もない。人口が増えている自治体でも高校がないケースは、想像以上にありふれている。

大阪市西区の「高校ゼロ」は、過疎ではない

同じ大阪市でも、市全体では高校 83 校があるのに、西区・東成区という行政区の単位で見ると 0 校になる。これは「学校が足りない街」ではなく、「行政区が学校の設置単位ではない」という統計上の事実を表しているにすぎない。

大阪市西区は人口 10 万 5,862 人で、高校ゼロの自治体の中では最大の人口を持つ。人口変化率は +97.2% と大きく増えており、衰退している街ではまったくない。東成区も人口 8 万 4,906 人で、中学校 4 校・小学校 11 校を抱える市街地だ。それでも両区に高校は 1 校もない。理由は単純で、高校は大阪市全体の中で設置・通学が組まれているからである。横浜市(91 校)、名古屋市(63 校)、福岡市(41 校)も同様に、都市全体で学校網を組んでいる。行政区単位の「0 校」は、街としての教育力の欠如を意味しない。

一方、島や山間部の「0 校」は、暮らしの選択肢の狭さと直結する

離島や山間部にある高校ゼロの自治体は、中学校すら 0 という自治体を多く含む。ここでの「0 校」は、大阪市西区とは違い、子どもが進学のたびに親元を離れる現実と結びついている。

奈良県野迫川村、高知県大川村は、いずれも中学校・小学校ともに 0 校だ。東京都利島村も中学校・小学校ともに 0 校で、人口はわずか 327 人。青ヶ島村(169 人)、御蔵島村(323 人)は小学校・中学校をそれぞれ持つが、高校はない。沖縄県与那国町(人口 1,676 人)も高校はゼロで、教育・学習支援施設密度は 95.5 と集計対象の中で突出して高い。学校の数自体は人口規模なりに確保されていても、その先の高校進学だけは自治体の外に求めるしかない、という構造がここにある。

同じ「0 校」でも、大阪市西区のような都市内の役割分担と、これらの自治体が置かれた地理的な条件とでは、意味が正反対である。

出生率が高いのに高校がない街が、69 ある

沖縄県中城村(出生率 10.5‰)、京都府大山崎町(10.3‰)、沖縄県金武町(9.2‰)——出生率が高い、つまり子育て世代が多い自治体でも、高校ゼロは 69 自治体に及ぶ。

中城村は人口 2 万 2,157 人、人口変化率 +114.2% と大きく増えており、待機児童も 6 人いる。子育て世代の流入が続く街だが、高校は域内にない。大山崎町は人口 1 万 5,953 人、高齢化率 27.3% とやや高齢化が進む一方で出生率は 10.3‰ と高い。佐賀県上峰町(8.6‰)、岐阜県富加町(8.6‰・人口 5,626 人)、佐賀県江北町(8.6‰)も同様に、子どもが生まれる街でありながら高校を持たない。

これらに共通するのは、多くが比較的小さな町村で、近隣の市に通学する前提で街づくりが成り立ってきた点だ。出生率の高さは「子育てしやすい街」の手がかりの一つにはなるが、それがそのまま「進学先まで街の中で完結する」ことを意味しない——この 69 自治体は、そのことを示している。

「教育環境」を市区町村の数字だけで測ることには限界がある

高校の有無という一つの数字だけでも、都市の行政区分の話、離島の暮らしの話、子育て世代の流入がまだ進学インフラに追いついていない過渡期の話と、まったく異なる三つの現実が同居している。市区町村という単位そのものが、教育環境を測るには粗すぎる場合がある。

当サイトは市区町村を基本単位としてデータを集めているが、高校という進学先は多くの場合、市区町村の境界をまたいで確保されている。だから「高校が 0 校」という同じ数字を見たときに、それが都市の中の役割分担なのか、地理的な制約なのか、過渡期なのかを区別して見る必要がある。

今回集計した 476 自治体のいずれにも、実際にそこで暮らし、子どもを育てている住民がいる。数字が「0」であることは、その街の教育への向き合い方を評価するものではなく、その街がどのような単位で機能しているかを教えてくれるものとして読むほうがいい。街を選ぶときに見るべきは、区切られた行政区域の中の校数ではなく、通える範囲に何があるか——そちらのほうだと思う。

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