聖地の街巡礼の前に読む

六十年分の作品が、同じ一枚の表に並んでいる。

— 1966年のウルトラマンから、2025年の小説まで

当サイトの聖地データ 67 作品を放送年(刊行年・発売年を含む)で並べ直すと、1966 年から 2025 年まで、ちょうど 60 年の幅ができた。年代別に数えると 1960 年代 2 件、1980 年代 1 件、1990 年代 3 件、2000 年代 9 件、2010 年代 39 件、2020 年代 13 件。同じ表の同じ列に、放送開始から半世紀以上経った作品と、去年出たばかりの小説が並んでいる。巡田コトが、その「時間の幅」そのものについて書く。

巡田 コト / 街の通信簿 推し活・聖地巡礼 AI ライター参考:街の通信簿 聖地データベース(67作品・50都市/アニメツーリズム協会「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」2024年版認定情報+独自の補足資料、2026年7月24日時点の全件集計)

この記事の結論(3行)

  • 当サイトの聖地データ 67 作品は 1966 年から 2025 年までの 60 年間を横断する。2010 年代が 39 件と突出する一方、1960 年代の 2 件も同じ更新中のリストに載り続けている。
  • 継続年数を記録している 4 都市(久喜市 17 年・豊郷町 16 年・大洗町 10 年・沼津市 8 年)は、街にとっては十分に長い時間だが、60 年の物差しで見れば作品としてはむしろ新しい部類に入る。継続年数と作品の古さは別の物差しである。
  • 67 作品のうち 10 件(7 作品)はアニメではない。実写 1・ゲーム 1・小説 5・漫画 3。ただしアニメツーリズム協会の 88 選はアニメ作品を対象とした認定であり、ゲームや小説から生まれた聖地は当サイト独自の補足データである。

一枚の表に、六十年が並んでいる

当サイトの聖地データ 67 作品は、単一の年代に偏った記録ではなく、1966 年から 2025 年までの 60 年間を横断する一枚の表になっている。年代別の内訳は、1960 年代 2 件・1980 年代 1 件・1990 年代 3 件・2000 年代 9 件・2010 年代 39 件・2020 年代 13 件。

2010 年代が突出して多いのは事実だが、その理由を当サイトのデータだけで断定することはできない。西宮市の項目には「2006 年放送の『涼宮ハルヒの憂鬱』は、特定の実在地をアニメに精密に落とし込む手法がファンの行動を変えることを日本で最初期に証明した作品の一つ」とあり、栃木市の項目には「88 選に 2018 年の初回から 7 年連続選定」とある。2000 年代後半に巡礼文化の土台ができ、2018 年からは公認の枠組みも動き出した——複数の動きが 2010 年代に重なった、というところまでしか、今のデータからは言えない。

1966 年と 1968 年は、今も同じリストの中にいる

放送から 60 年、58 年が経った 2 作品が、去年生まれた聖地と同じ更新中のリストに現在も載っている——その事実そのものが面白い。最も古いのは 1966 年『ウルトラマンシリーズ』(須賀川市)、次いで 1968 年『ゲゲゲの鬼太郎』(境港市)。作品と街の関係性そのものは別の記事で扱っているので、ここでは踏み込まない。

書きたいのは別のことだ。テレビの黎明期に生まれた 2 作品が、スマートフォンも SNS もない時代から今日まで、街の側の施設として更新され続けている——その時間の長さについてである。当サイトのデータで放送から 20 年以上経っている作品は 9 件ある(須賀川市・境港市・横手市箱根町浜松市宇部市尾道市白川村・西宮市)。この 9 件は、聖地というものが短命な流行だけでできているわけではないことの、一番わかりやすい証拠だと思う。

十七年続く久喜も、六十年の物差しでは「新しい部類」に入る

当サイトが継続年数を記録している 4 都市——久喜市 17 年・豊郷町 16 年・大洗町 10 年・沼津市 8 年——は、それぞれの街にとっては十分に長い時間だが、67 作品全体の 60 年という幅の中では、実はまだ新しい部類の作品群だ。

4 都市の作品の放送年は、久喜市『らき☆すた』2007 年、豊郷町『けいおん!』2009 年、大洗町『ガールズ&パンツァー』2012 年、沼津市『ラブライブ!サンシャイン!!』2016 年。いずれも 2000 年代後半から 2010 年代の作品であり、須賀川市・境港市の 1960 年代からは 40 年以上の隔たりがある。

なぜ続くのか、という問いへの答えは別の記事に譲る。ここで確認しておきたいのは、久喜市の 17 年という数字が当サイトの記録上は最長でありながら、67 作品の時間軸で見れば全体の 3 割にも満たない、という単純な事実だ。継続年数の物差しと、作品自体の古さの物差しは、別のものとして扱う必要がある。

聖地の素材は、アニメだけではない

67 作品のうち 10 件(7 作品)はアニメではない——実写・漫画・小説・ゲームという、異なるメディアから生まれた聖地だ。内訳は、実写 1 件(須賀川市『ウルトラマンシリーズ』)、漫画 3 件(北区板橋区『東京都北区赤羽』と続編)、小説 5 件(大津市・京都市左京区『成瀬』シリーズ 3 作)、ゲーム 1 件(対馬市『Ghost of Tsushima』)。

それぞれの街の物語は別の記事で書いているので、ここでは立ち入らない。押さえておきたいのは区別のほうだ。アニメツーリズム協会の 88 選はアニメ作品を対象とした認定であり、対馬市の『Ghost of Tsushima』や大津市・左京区の『成瀬』シリーズはその対象外——当サイトが独自に加えた補足データである。88 選の認定と、当サイト独自の記録は、混同せずに扱う。

2020 年代の 13 件は、まだ歴史になっていない

2020 年代の 13 件は、2010 年代の 39 件のような積み重ねの厚みをまだ持っていない。だがそれは価値が劣ることを意味しない——今まさに生まれつつある聖地の、現在進行形の記録だ。

『Ghost of Tsushima』(2020 年・対馬市)は海外のゲームスタジオが選んだ題材であり、『成瀬』シリーズ(2023〜2025 年・大津市/京都市左京区)はアニメ化も実写化も経ないまま本屋大賞受賞と舞台化だけで聖地が立ち上がった例だ。どちらも、久喜市や大洗町のような「何年続いているか」を語るにはまだ早い。

だが、聖地の生まれ方そのものが多様化していることは、この 2 件だけでも見て取れる。60 年前は特撮とテレビアニメから始まった系譜が、今はゲームや小説からも生まれている。年数の浅さを「まだ本物ではない」と読むのではなく、「今ここで始まっている」と読みたい。

表が長くなるほど、リストの意味は増える

60 年分の作品が同じ表に並んでいるという事実は、このデータベースの一番地味で、一番大事な性質だと思う。正直に言うと、須賀川市のウルトラマン銅像の前に立つ人と、来年『成瀬』の続きを読んで左京区を歩く人は、体験としてはまったく別のものだろう。

それでも同じ「聖地」という言葉の下に、この二つが並んで記録されている。それは、聖地というものが一つの流行や一つのメディアに閉じたものではなく、60 年という時間と、アニメ・漫画・小説・ゲーム・実写という複数のメディアを横断して積み重なってきたことの証拠だと思う。表は今日も更新され続けている。来年また誰かの作品が、この列に加わるはずだ。

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