地価の3年は、どう読むのか
— 2022〜2024年、あなたの街の実取引データが語ること
この記事は、初めてマイホームを真剣に考え始めた方に向けて書いています。「土地の値段って、何を見ればいいのだろう」という入り口から、街の通信簿の土地・家ページに並ぶ数字の読み方を、一緒に整理してみます。
この記事で分かること
- 「坪単価」「実取引中央値」「取引件数」——土地・家ページに並ぶ数字が、それぞれ何を意味するのかが分かります。
- 2022〜2024年の3年間、実際の取引データで地価がどう動いたか(上昇・横ばい・下降)を、4つの街の実例で読みます。
- 「安い=ねらい目」ではなく、初めて家を買う人が数字を"購入判断"にどう活かすか、その視点を持ち帰れます。
そもそも「地価」とは何か
土地の値段は、一物一価ではありません。毎年1月の公示地価(国土交通省が標準地を選んで評価する価格)もあれば、実際に売買が成立したときの取引価格もあります。街の通信簿の土地・家ページが表示しているのは後者——国土交通省の不動産情報ライブラリ(reinfolib)に集積された実取引データを、年ごとの中央値として集計したものです。
「中央値」という言葉に慣れておくと、以降の数字がぐっと読みやすくなります。100件の取引があったとして、価格順に並べたときの真ん中——51番目の値が中央値です。1件だけ飛び抜けて高い豪邸の取引があっても、それに引きずられないのが中央値の強みです。一方の「平均値」は、そうした外れ値に敏感です。土地の取引価格は分布に偏りが出やすいため、中央値のほうが「その街の典型的な取引の水準」を捉えやすいのです。
「万円/㎡」と「万円/坪」——2つの単位を行き来する
街の通信簿のページには「○○万円/㎡(坪単価 ○○万円)」という形で、2つの単位が並んでいます。㎡(平方メートル)は国際標準の面積単位で、土地取引の公的データはすべて㎡ベースです。一方の「坪」は日本の不動産取引に今なお根強く使われる単位で、1坪は3.30578㎡です。
この換算を知っておくと、感覚がつかみやすくなります。たとえば「20万円/㎡」の街なら、坪単価は約66万円(20×3.30578)。30坪の土地なら約1,980万円が目安になります。坪単価で会話できるようになると、不動産業者との打ち合わせも少し楽になります。
3年間の変化——4つの街の実例から
街の通信簿の土地・家ページには、2022年・2023年・2024年、3年ぶんの宅地取引中央値と取引件数が並んでいます。この数字をどう読めばいいか、実際の4つの街を例に見てみましょう。
滋賀県草津市の宅地中央値は、2022年の8.8万円/㎡(坪単価約29万円)から2024年には13.1万円/㎡(坪単価約43万円)へと、3年間で約49%上昇しています。取引件数は138件・152件・122件と、3年を通じて100件を超える安定した出来高でした。価格が上がりながら件数も維持されている——これは需要の強さを示すシグナルです。草津市は琵琶湖南岸に位置し、京阪神へのアクセスと独自の都市機能を両立させながら人口を増やしてきた街です。
埼玉県富士見市でも同様の動きが見られます。2022年の13.8万円/㎡(坪単価約46万円)から2024年には19.0万円/㎡(坪単価約63万円)へ、3年で約38%上昇しました。取引件数は73件・55件・50件と漸減していますが、それでも価格は上昇を続けています。件数が減りながら価格が上がる場合は、「出物が少ないなかで買い手が競合している」状況を反映している可能性があります。富士見市は東武東上線沿線の都心通勤圏として、近年注目を集めてきた街です。
穏やかな横ばいだった街 — 長野県松本市
長野県松本市の宅地中央値は、2022年の4.7万円/㎡(坪単価約15万円)、2023年に5.1万円/㎡(約17万円)と上がりましたが、2024年は4.8万円/㎡(約16万円)へ戻っています。取引件数は339件・302件・273件と、毎年300件前後の出来高を保っています。松本市は長野県を代表する中核市で、生活利便性が高く、移住先としても人気があります。地価は大都市圏と比べて穏やかな水準にとどまり、この3年間は「上がりも下がりもしない、安定した相場」という印象です。
下降傾向が続く街 — 群馬県桐生市
群馬県桐生市の宅地中央値は、2022年の1.9万円/㎡(坪単価約6万円)から2024年には1.6万円/㎡(坪単価約5万円)へ、3年間で約17%下がっています。取引件数も89件・78件・52件と、減少が続いています。価格と件数が両方下がっているときは、売買自体が細っている状態を示しています。
ここで立ち止まって考えたいことがあります。桐生市は繊維産業で栄えた歴史を持ち、今も多くの方がその街で暮らし、地域の文化を継承しています。地価の下落はその方々にとって、資産価値の低下という切実な現実でもあります。「値段が下がった=ねらい目」とは、簡単には言えません。価格の変化は、その街の需要と供給——そしてその背景にある人の流れや産業の変化を映す鏡です。数字を見るときは、そこに暮らす人々の時間に敬意を払いながら読む必要があります。
取引件数は「信頼性の目盛り」
もうひとつ、取引件数に注目してください。これは単なる賑わいの指標ではなく、中央値の信頼性を測る目盛りです。群馬県の下仁田町を例にとると、2022年の取引件数は1件(中央値のデータなし)、2023年は6件で中央値4,333円/㎡、2024年は2件(中央値のデータなし)となっています。年間1〜2件では中央値が計算できないほど、取引そのものが少ない。これは「安い」ではなく「売り買いがほとんど起きていない」という状態です。仮にここで家を購入したとして、10年後に売却しようとしたとき、買い手がいるかどうかの見通しが立てにくくなります。「流動性が低い」という事実は、取得時の価格と同じくらい重要な情報です。
取引件数が数十件から数百件ある街は、それだけ市場として機能しており、将来の売却時にも選択肢を持ちやすいと言えます。
「実取引中央値」か「都道府県の参考値」か——ページで確認する
街の通信簿のページには、地価の表示が2種類あります。「住宅地・実取引中央値」と表示されている場合は、reinfolib に実際の取引記録が存在し、その中央値を計算したものです。その街で実際に成立した売買の記録です。
「都道府県の参考値」と表示されている場合は、reinfolib での実取引データが十分に取得できていないため、都道府県全域の水準を参考値として表示しています。その街固有の取引実績ではありません。
これはこのサイトが意図的に設けた区別です。参考値の街であっても、その街のページは存在し、ほかの指標を確認できます。しかし地価については「この数字は街固有の実績ではない」という前提で読んでください。自分が気になっている街のページを開いたとき、まずこのラベルを確認するところから始めることをお勧めします。
県内ランキングで「相対水準」を知る
街の通信簿の土地・家ページには、県内ランキング(宅地中央値の価格降順)も掲載しています。たとえば「埼玉県内で○位 / ○市町村」という表示です。
この数字は2つの使い方ができます。ひとつは「同じ県のなかで、この街の土地はどのくらいの水準か」を把握すること。もうひとつは、上下の街のページへリンクで飛べるため、「もう少し郊外ならいくらか」「もう少し都市寄りならいくらか」を比較する出発点になることです。
県内ランキングは、価格の高低を「良い/悪い」とは言っていません。生活圏と価格帯のバランスを自分で判断するための座標軸です。
3年間のデータで分かること・分からないこと
ここまで読んでいただいた方には、正直に伝えておきたいことがあります。2022〜2024年の3年間は、ある特別な期間でした。コロナ禍を経てテレワークが定着し、都市圏郊外や地方移住への関心が高まった時期と重なります。この3年に見られた「郊外の急上昇」や「地方都市の安定」が、今後も同じ方向で続くとは限りません。3年は、長い住宅の歴史のなかでは断片です。
加えて、1年ごとの価格は、取引件数が多い年ほど安定し、少ない年ほど数件の特殊な取引に左右されやすくなります。年次変化をグラフで見たときに「急騰・急落」が起きていても、取引件数を確認することで、それが実態の変化なのか、偶発的な動きなのかを、少し判断できます。
「この3年、あなたの街の地価はどう動いたか」——それを知ることは、購入判断の入り口のひとつです。ただし、出口は必ず、その街で長く暮らす自分のライフスタイルと照らし合わせた先にあります。
数字の先に、その街の時間がある
街の通信簿の土地・家ページは、データを正直に見せることに徹しています。実取引があればその中央値を、なければ参考値であることを明示する。件数が少なければ「データなし」を表示する。それは、土地の取引の向こうには必ず、その土地で暮らしてきた人がいるからです。
数字はその街の一断面を映しますが、街そのものではありません。価格が上がっている街にも、下がっている街にも、そこに根を張る人がいて、それぞれの日常があります。自分の街のページを開いて、まず地価の3年を見てみてください。数字の後ろにある文脈も、少し一緒に想像しながら。