土地・家を、数字で読む街選びの座標を持つ人へ

所得の高い街は、地価も高いのか

— 1,222市区町村の散布図が見せる「ズレ」の正体

地図の左上には、ホタテが書き換えた村がある——「所得が高い街は、地価も高い」となんとなく思っていないでしょうか。新機能「所得×地価マップ」で全国約1,222市区町村を散布図にしてみると、この思い込みはあっさり崩れます。先に結論を言うと、所得と地価は、ゆるやかに連動しつつも、街によっては大きくズレる。そのズレにこそ、街の産業構造や需要構造の物語が詰まっています。

丘田 ちひろ / 街の通信簿 移住・街選び・住まい AI ライター2026 年 7 月公開参考:国土交通省 不動産情報ライブラリ(reinfolib)実取引価格中央値 2022〜2024年(坪換算)/総務省 市町村税課税状況等の調(1人あたり課税対象所得)

この記事の結論(3行)

  • 所得と地価はゆるやかに連動しますが、一致はしません。「所得高め×地価控えめ」「所得控えめ×地価高め」の街が、全国にはっきり存在します。中には、坪単価が全国最安級なのに所得は東京都心区に迫る村もあります。
  • 所得高め×地価控えめの代表は、猿払村・芝山町・忍野村など。一次産業の高付加価値化や、空港・大企業の立地が背景にあります。
  • 所得控えめ×地価高めの象限には沖縄の街が集まります。移住・観光需要による地価上昇に、所得の伸びが追いついていない構造です。

「所得が高い街=地価も高い街」は、思い込みだった

坪単価は全国最安級なのに、所得は東京都心区に迫る——そんな村が、この散布図の左上に実在します。所得と地価は連動するようでいて、街ごとに大きくズレる。新機能「所得×地価マップ」は、そのズレを目に見える形にした道具です。横軸に坪単価(対数目盛り)、縦軸に平均所得を置き、両方のデータが揃う全国約1,222市区町村を、一つずつ点として散布図に描きます。

全体の中央値はおおよそ坪単価6万円台前半・所得326万円前後。この2本の線を引くと、散布図は4つの区画に分かれます。所得高め×地価控えめ、所得高め×地価高め、所得控えめ×地価控えめ、所得控えめ×地価高め——この記事では、"ズレ"が際立つ2つの象限、左上と右下に注目します。

左上の象限——所得は高いのに、地価は控えめな街がある

散布図の左上、「所得は高いのに地価は控えめ」という象限には、いくつかの小さな町村が集まっています。共通するのは、一次産業の高付加価値化か、大きな施設・企業の立地です。

この象限で最も目を引くのが、北海道の猿払村です。所得599.9万円、坪単価は1.5万円。所得だけ見れば東京都心の区に迫る水準でありながら、坪単価は全国でも最安級——この振れ幅の大きさこそ、左上の象限を象徴しています。猿払村はかつて「日本一貧しい村」と言われた時代があったと語られますが、ホタテの稚貝を育てて放流し、大きくなってから獲る「つくり育てる漁業」への転換に取り組み、今では全国屈指の一人当たり所得の村になった——という逆転譚が広く知られています。坪1.5万円という地価は変わらないまま、所得だけが海の向こうから積み上がっていった。数字の裏側に、そういう物語がある村です。

千葉県の芝山町は所得661万円、坪単価3.2万円。成田空港に隣接する町という立地が、地価には表れにくい形で所得を押し上げています。山梨県の忍野村は所得567.9万円、坪単価6.1万円。大手製造業の本社が立地していることが、この数字の背景にあります。北海道の安平町(所得616.7万円・坪1.9万円)、鹿児島県の宇検村(所得663.8万円・坪2万円)、山梨県の山中湖村(所得513.7万円・坪3.3万円)、福島県の会津美里町(所得640.5万円・坪3.4万円)も、同じ象限に並びます。

ただし、小さな村の平均所得は「揺れやすい」——ここは正直に

左上の象限を「隠れた豊かな村」と単純に語るのは、正確ではありません。人口の少ない村の平均所得は、少数の高所得者や特定の産業構造に大きく左右されるからです。

猿払村や忍野村の例が示すのは、「その村に暮らす全員が豊か」ということではなく、「その村の産業構造が、統計上の平均所得を押し上げる形になっている」ということです。数字の裏にある構造——一次産業の稼ぐ力、あるいは企業の立地——まで見て初めて、この象限の意味が分かります。地価が控えめであることと、所得の水準は、それぞれ別の理由で動いている。これが左上の象限が教えてくれる、いちばん大事なことです。

右下の象限——地価は高いのに、所得が追いついていない構造

散布図の右下、「所得は控えめなのに地価は高め」という象限の坪単価上位には、沖縄の街が集中しています。これは偶然ではなく、構造です。

宜野湾市は所得325.2万円・坪単価38.6万円。沖縄市は所得322.6万円・坪単価28万円。西原町は所得306.2万円・坪単価29.4万円。豊見城市は所得323.7万円・坪単価23万円。いずれも所得は全体の中央値(約326万円)とほぼ同水準か、それをやや下回る一方で、坪単価は全体の中央値(坪6万円台前半)の4〜6倍に達しています。移住や観光による需要の強さが地価を押し上げる一方、所得の伸びがそのペースに追いついていない——これが右下の象限が語る構造です。

「地価が高い=豊かな街」でも「所得が低い=ダメな街」でもない

ここで一度、はっきり言っておきます。象限はあくまで「傾向の座標」であって、街の優劣を示すものではありません。左上の象限にいる村が「勝ち組」で、右下の象限にいる街が「負け組」というような読み方は、この機能の意図と正反対です。

右下の象限にいる沖縄の街々は、人口が増え、観光や移住の需要が強いからこそ地価が上がっています。それは活力のある街の証でもあります。ただし、そこで暮らす方、これから家を買おうとする方にとっては、収入に対する取得コストの重さという、切実な現実でもあります。数字が示すのは構造であって、街の価値そのものではない——このマップを見るときは、そのことを忘れないでください。

右上——「所得日本一」と「地価日本一」は、同じ街ではない

所得も地価も高い右上の象限では、東京都心の街が並びますが、その中身は一様ではありません。日本一の分かれ方が、面白いのです。所得日本一は港区、地価日本一は千代田区——「日本一」の看板が、隣り合う2つの区で分かれています。港区は所得1780.8万円・坪単価854万円。千代田区は所得1175.5万円・坪単価1043.9万円。所得は港区が上、坪単価は千代田区が上——同じ「両方高い」象限の中でも、どちらの軸がより突出しているかで、街の性格は変わります。

港区は住む人の所得水準そのものが際立っている街、千代田区はオフィス・商業需要を含めた土地の稀少性が坪単価により強く表れている街、と読み解くことができます。「住む街」としての強さが港区、「土地」としての強さが千代田区——同じ右上の象限にいながら、勝負している土俵が違う。象限は4つに区切られていますが、同じ象限の中でも、点の位置によって街の物語は違います。

散布図は、自分の街の「座標」を知る道具

この散布図の使い方は、自分が知っている街、これから住もうとしている街が、どの位置にあるかを確かめることです。中央値の線からどれくらい離れているか、どちらの象限にいるか——それだけで、その街が「所得の割に地価が控えめ」なのか「地価の割に所得が追いついていない」のか、感覚的につかめます。

数字は道具であって、結論ではありません。散布図の点ひとつひとつの向こうに、その街で働き、家を探し、暮らしている人たちがいます。ぜひ土地・家TOPの「所得×地価マップ」を開いて、自分の街、気になっている街がどこに位置しているか、自分の目で確かめてみてください。

📣 この記事をシェアする