地価が高い街ほど、地震確率も高いのか。

— 地価上位20市区町村の地震確率平均は51%。ただし洪水とは、ほぼ無関係だった

地価・洪水浸水想定・地震確率の三つが揃う 1,745 自治体で相関を計算すると、log(地価)と地震確率は +0.354 の弱い正の相関、洪水浸水率とは +0.042 でほぼ無相関だった。「地震確率が高い街ほど地価も高い」——数字はそう出ている。だがこれは「危険だから高い」という意味ではない。人と産業が集まる太平洋側の平野部が、たまたま地震確率の高い地域と重なっているだけだ。丘田ちひろが、その交絡を数字で解きほぐす。

丘田 ちひろ / 街の通信簿 移住・街選び・住まい AI ライター参考:防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーション(今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率)/国土交通省 国土数値情報 洪水浸水想定区域データ/国土交通省 不動産情報ライブラリ reinfolib 宅地取引価格中央値(2026年7月24日時点・母数1,745市区町村)

この記事の結論(3行)

  • log(地価)と地震確率の相関係数は +0.354(弱い正の相関)、洪水浸水率とは +0.042(ほぼ無相関)。地価上位20市区町村の地震確率平均は 51.1% で、全国中央値 20.9% の約2.4倍にのぼる。
  • ただしこれは「危険だから地価が上がる」のではない。人口・産業が集中する太平洋側の平野部が、地理的に地震確率の高い地域と重なっている交絡である。相関は因果を意味しない。
  • 洪水浸水率と地価はほぼ無関係で、1,745自治体の中央値はちょうど 0。地価は「需要の集中」を映す指標であって、その土地の安全性を示すものではない。

まず結論——地震確率とは弱い正の相関、洪水とはほぼ無関係

地価が高い街ほど地震確率も高いという関係が実データに表れている。ただしこれは「危険だから地価が上がる」という意味ではない。地価・洪水浸水想定人口比率・地震確率の三つがすべて揃う 1,745 市区町村で計算すると、log(地価)と地震確率(今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率)の相関係数は +0.354。統計的には「弱い正の相関」と呼ばれる水準だ。一方、log(地価)と洪水浸水率の相関係数は +0.042——実質的に無相関である。

この二つを並べると、直感に反する疑問が浮かぶ。「地震のリスクが高い街ほど、地価も高いのか」。答えは半分イエスで半分ノーだ。数字としてはそう出ている。しかしそれは、地震リスクが地価を押し上げているという意味ではない。なぜそう見えるのか、その見え方をどう読むべきなのかを、実際の自治体の数字で確かめていく。

地価上位20の地震確率平均は 51%、全国中央値の 2.4 倍

全国で地価が最も高い20市区町村だけを見ると、地震確率の平均は 51.1%——全国中央値 20.9% の約 2.4 倍にのぼる。千代田区(54.4%)、中央区(50.5%)、渋谷区(50.7%)、文京区(64.7%)、江東区(78.1%)——地価上位に並ぶのは、いずれも全国中央値を大きく上回る自治体だ。

一方で興味深いのは、この地価上位20市区町村の洪水浸水率がすべて 0 という点である。地震確率は地価と一定の関係を見せるのに、洪水浸水率は「地価が最も高い集団」の中で一貫してゼロ。この非対称性が、次に読み解くべき本題になる。

「危険だから高い」のではなく、人が集まる場所とたまたま重なっている

地震確率が高い自治体に地価の高い街が多いのは、危険が価格を押し上げているからではなく、人口・産業が集中する太平洋側の平野部が、地理的に地震確率の高い地域と重なっているためだと考えられる。日本の人口・経済は歴史的に、関東平野をはじめとする太平洋側の沖積平野に集中してきた。平坦な土地・港・交通の便が都市の成長を支えてきたからだ。そしてこの同じ太平洋側は、プレート境界に近い地震の多い地域でもある。

つまり「地価を押し上げる地理的条件(平野・港・交通)」と「地震確率を押し上げる地理的条件(プレート境界への近さ)」が、同じ場所に重なっている。浦安市(地震確率 84.6%・地価 42.0万円/㎡)、荒川区(80.4%・58.5万円/㎡)、大田区(63.7%・64.6万円/㎡)、北区(63.2%・61.1万円/㎡)——東京の臨海部・低地に位置する街ほど、この重なりがはっきり表れる。

これは「危険だからこそ人気」という因果ではなく、「便利な低地に人が集まった結果、地震確率も高い」という、地理を介した交絡である。相関係数 +0.354 はこの交絡を含んだ数字であり、危険性そのものへの評価ではない。

洪水浸水率は地価とほぼ無関係——中央値ゼロという分布が語ること

洪水浸水想定人口比率と地価の相関係数はわずか +0.042 で、実質的に無相関である。1,745 自治体の洪水浸水率の中央値は、ちょうど 0 だった。つまり少なくとも半数の自治体で、想定浸水域内の人口比率がゼロと記録されている(この指標は主要河川の洪水浸水想定区域に基づくもので、内水氾濫・高潮・土砂災害は含まない)。

この指標が地価と無関係であることは、個別の自治体を見るとより明確になる。戸田市(洪水浸水率 61.0%・地価 28.6万円/㎡)のように浸水率が高くても地価が高い街がある一方、五所川原市(59.9%・1.9万円/㎡)のように浸水率が高くても地価が低い街もある。洪水浸水率は、地価が高い街にも安い街にも同じように分布しており、価格の高低を説明する軸になっていない。

全国の傾向は、個々の街の答えにならない

1,745 自治体で見た相関係数は集団としての統計的傾向であり、個々の街の実態を説明するものではない。地震確率が低い自治体の中には、地価も低い街が数多くある。北海道の利尻町(地震確率 1.2%・地価 1,000円/㎡)、鳥取県の若桜町(1.1%・1,194円/㎡)、群馬県の片品村(0.9%・1,364円/㎡)——これらの街の地価が低いのは、地震確率が低いからではなく、人口規模や住宅需要の絶対量が小さいためだ。

相関係数 +0.354 は「地震確率が高い街ほど地価が高い傾向がある」という集団としての関連を示しているにすぎず、「ある特定の街の地価が高いのは危険だからだ」とも「ある特定の街の地価が安いのは安全だからだ」とも読むことはできない。全国の傾向を、目の前の一つの街の判断材料にすり替えないことが大切だ。

地価が教えてくれるのは「需要の集中」であって、「安全」ではない

地価は人口・産業・利便性がどれだけ集中しているかを映す指標であって、その土地が安全かどうかを示す指標ではない。ここまで見てきたとおり、地震確率とはゆるやかな正の相関、洪水浸水率とはほぼ無相関——地価という数字は、防災上の条件とは別の理屈で動いている。地価が高いからといって災害リスクが高いとも低いとも言えず、地価が安いからといって安全とも危険とも言えない。

住まいを選ぶときに大切なのは、地価は地価として「需要の集中度」を読み、地震確率・洪水浸水率はそれぞれ独立した指標として別途確認することだ。当サイトの各街のページでは、地価とあわせて地震確率・洪水浸水率も個別に掲載している。一つの数字に安心も不安も丸ごと預けず、答えている問いが違う指標として、それぞれを確かめてほしい。

住まいと防災を、もっと知る
🛒Amazon で探す
🎭 ゆかりの作品から選ぶ
📦 カテゴリ
PR・Amazon.co.jp
街を訪ねてみる
📣 この記事をシェアする